ユーザー管理機能の要件定義と見積

~設計・工数まで徹底解説~

監修者・安達奨

安達 奨(Susumu Adachi)

ITコンサルタント/Knowledge marketing合同会社 代表

IT業界で15年以上の経験を持ち、システム開発の上流工程から下流工程に至るまで幅広く精通。(企画、要件定義、設計、プログラミング、テスト)
現在ではシステム開発のみならず、ツール選定、ベンダー選定など、大手~中小企業向けのIT支援を多数手がける。
本サービスでは、特に事業会社時代から "システム開発会社の見積" に疑問を感じており、これを是正すべきと考え監修を行っている。

はじめに

Webシステムや業務システムにおいて、ほぼ必須といえるのが「ユーザー管理機能」です。会員登録やログイン、権限管理などを含むこの機能は、見積もりや設計の際に軽視されがちですが、実は複数の工程や考慮点があり、見積の精度がプロジェクト全体の成功を左右することもあります。

本記事では、フロント画面が完成している前提で、ユーザー管理機能の見積に必要な要素を、以下の観点から解説していくものとします。

  • ユーザー管理機能の一覧と概要
  • 機能ごとの要件定義
  • 大まかな設計方針
  • 各機能ごとの工数見積

これは非常に良くある見積・設計手法の流れではあるものの、近年ではデザイン思考による要件定義に加え、サービスとして必要な観点(セキュリティなど)を足していくスタイルもあります。事業会社の社員やコンサルタント、自社プロダクトの開発などで要件定義をしてきた私としては、そちらの方が間違いなく正確に要件を伝えることが出来るため、最後に少し触れていきたいと思います。

1. ユーザー管理機能の一覧と概要

ユーザー管理とは、システム内でユーザーを一元管理するための機能群のことです。一般的な構成は以下の通りです。

機能名 概要 ユーザー画面 管理画面
ユーザー一覧表示 管理画面上で登録済みユーザーを一覧表示 ×
ユーザー詳細表示 個別ユーザーのプロフィールや権限などを確認 △(一部機能としては管理画面側で必要な部分と被る。主にマイページの機能)
ユーザー登録 新規ユーザーを手動で登録 〇(ログイン画面の機能) 〇(個別の登録に加え、CSVによる一括登録などの機能もあると良い)
ユーザー情報編集 名前・メールアドレス・所属などの情報を編集 〇(主にマイページの機能)
パスワードリセット ユーザー自身または管理者によるパスワード変更 〇(ログイン画面の機能) △(ユーザー画面につけておけば不要なケースも多い)
権限設定・変更 一般ユーザー/管理者などのロールを変更 △(一般ユーザー以外にも、月額課金モデルでは課金額に応じた制御などもあり得ます。)
アカウントロック/解除 セキュリティ上の理由でログイン停止措置を行う △(アカウントロックを管理画面から強制することは少ないのですが、ブラックリストなどの作成を行う場合もあります。)
ユーザー削除(論理削除) ユーザーを無効化し、データベース上には残す(ユーザー情報は、実績集計などの観点から完全な物理削除はあまり行わない。ただし、個人情報に相当する、名前、住所、電話番号などは適当な文字列に置換するケースも多い。) △(退会時の操作で行う場合もある)

上記はアクター(登場人物)が、ユーザーと管理者の2人しかいないケースを想定して記載しています。

例えば、協力者を挟むようなサービス(弊社が運営しているコミュニティサイトであれば、コミュニティ加入者・コミュニティオーナー・管理者がいます)が必要になるため、特にユーザーの権限周りは複雑さを増します。

そういった場合には、セキュリティ上の観点からそもそもサーバーやDBを分離するなどの対策がインフラレイヤーに求められることもあるため注意をしましょう。

2. 機能ごとに詳細な要件定義を行う

それぞれの機能は、プログラムで書くためにより具体的な要件にする必要があります。主な例を以下に示します。

2-1. ユーザー一覧表示

<検索フォーム>

  • 検索項目(名前・メールアドレス・ステータスなど)
  • バリデーションチェック
  • 未入力時は全件表示

<検索中>

  • ローディング画面を表示

<検索結果>

  • 表示項目(名前・メールアドレス・ステータスなど)
  • ソート(登録日時順など)
  • ページネーション
  • 検索結果のCSV出力(オプション)

2-2. ユーザー詳細表示

  • 基本情報(名前、メールアドレス、ステータス、登録日など)
  • 詳細情報(サービスによって保存する内容は様々ですが、ECなどで言えば購入履歴や興味のあるもの、流入経路などもこれに含めてもいいでしょう)
  • 権限、最終ログイン日時
  • ログイン履歴(オプション)

2-3. ユーザー登録

  • 入力チェック(必須項目、形式、重複など)
  • 仮登録 → メール通知 → 本登録フローも選択肢(「管理者から追加する場合には仮登録のフローを取らない」などの要件も可能)
  • 初期パスワード設定と通知(初期パスワードをユーザーに初めから入力させる形式などももちろんあります。)

2-4. ユーザー編集

  • 編集可能範囲の制御(管理者/本人)
  • バリデーションチェック
  • 更新履歴の保持(ユーザー情報に限った話ではないのですが、DB上に変更前の情報も全て保存するような設計をした場合には必要。)

2-5. パスワードリセット

  • 本人申請時:メール認証リンクを送付
  • 管理者操作時:自動生成パスワード通知
  • トークンの有効期限設定

2-6. 権限管理

  • ロール制御(先ほどのコミュニティの例以外にも、例えばWordPressの様なブログサイトを自前で作る際には、管理者権限に対し「管理者・編集者・閲覧者」などのロールが必要になります。)
  • 権限ごとの画面表示/操作制限
  • ロール定義のDB管理

2-7. アカウントロック/解除

  • ログイン失敗回数による自動ロック
  • 管理者による手動ロック
  • ログ記録との連携(監査ログ)

2-8. ユーザー削除

  • 論理削除(フラグで無効化)
  • 物理削除の抑制
  • 関連データへの影響確認(例えば、ユーザー情報を削除した場合に、「過去購入した情報を全て削除してもよろしいでしょうか?」などのメッセージを出して消すタイプの機能)

3. 大まかな設計方針

3-1. バックエンド技術スタックの例

  • 言語:PHP/Node.js/Ruby on Rails など
  • フレームワーク:Laravel/Express/Rails
  • DB構成:ユーザーテーブル+ロールテーブル+ログテーブル

3-2. エンティティ設計(例)

users
├─ id
├─ name
├─ email
├─ password_hash
├─ role_id
├─ is_active
├─ created_at
├─ updated_at roles

roles
├─ id
├─ name (admin/editor/viewer)
├─ description

3-3. API設計(例)

メソッド エンドポイント 概要
GET /api/users ユーザー一覧取得
GET /api/users/{id} 詳細取得
POST /api/users 登録
PUT /api/users/{id} 編集
DELETE /api/users/{id} 論理削除

4. 工数見積の考え方

フロントは既に完成しているのを前提としたため、API実装+バックエンド設計の工数見積は以下の通りです。

機能 工数(人日) 備考
ユーザー一覧 1.5日 DB検索+ページング
詳細表示 1日 シンプル
登録 2日 バリデーション・通知あり
編集 1.5日 権限制御あり
パスワードリセット 2日 トークン管理あり
権限変更 1日 ロール管理が前提
ロック/解除 1日 ログ連携次第で増加
削除処理 0.5日 論理削除のみの場合。関連データを削除する必要がある場合には、関連データ分の試験も必要になることから注意。
テスト・コードレビュー 2日 一通りの検証を含む

合計:約12〜13人日(1人で開発した場合、約2.5〜3週間)

5. コスト換算(相場ベース)

工数を元にしたコスト感は以下の通りです。

  • フリーランス単価:6〜8万円/日
  • 企業案件単価:8〜12万円/日

概算費用:72万円~156万円程度(フロント画面がある前提)

6. 注意点と見積時の落とし穴

  • ユーザー管理は軽く見られがちだが、セキュリティ対応・通知設計・エラーハンドリングを丁寧に行う必要あり
  • 権限・ロールが複雑化すると、設計全体に影響が及ぶため、要件定義の段階でのロール設計は重要
  • APIのみの実装であっても、メール通知や監査ログの対応が必要な場合、工数が大きく変わる

まとめ

ユーザー管理機能は一見シンプルに見えても、実装・セキュリティ・拡張性の観点から工数・コストともに侮れない要素です。正確な見積を行うためには、以下の3点が重要です。

  • 機能要件を明文化し、対象範囲を明確にすること
  • ロール設計とセキュリティポリシーを早期に決定すること
  • 実装+テストまで含めた開発体制と予算の検討を行うこと

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