システム開発・導入におけるコストカット術

安易な「安さ」に流されず、費用対効果を最大化する戦略的アプローチ

監修者・安達奨

安達 奨(Susumu Adachi)

ITコンサルタント/Knowledge marketing合同会社 代表

IT業界で15年以上の経験を持ち、システム開発の上流工程から下流工程に至るまで幅広く精通。(企画、要件定義、設計、プログラミング、テスト)
現在ではシステム開発のみならず、ツール選定、ベンダー選定など、大手~中小企業向けのIT支援を多数手がける。
本サービスでは、特に事業会社時代から "システム開発会社の見積" に疑問を感じており、これを是正すべきと考え監修を行っている。

はじめに:なぜ「コストカット」が課題になるのか

DX(デジタルトランスフォーメーション)や業務のIT・デジタル化が進む中、多くの企業がシステム開発や導入を検討しています。しかし、同時に現場からはこんな声も聞こえてきます。

  • 「業者の見積が高すぎて驚いた」
  • 「もっと安く導入できると思ったのに」
  • 「想定より費用が膨らんでしまった」
  • 「導入したけれど社内に浸透しなかった」

背景には、“価格だけ”にとらわれて本質的な要件を見誤ってしまうといった失敗が多く存在しています。

本記事では、ITコンサルタントの視点から、「本質的なコストカットを実現するため」のHow toとしてデジタル化を進めるための考え方・具体的な方法・注意点を、体系的に解説します。

 

【結論】安さよりも費用対効果の試算が重要

結局のところ、どれだけ初期費用や運用費用が安かろうと、数字が上がらなければ意味がありません。まずはこれが大前提です。

それに対し、多方面からよく耳にする失敗例として、安価なSaaSやパッケージを使ったがために「基幹システムとの繋ぎこみができなかった」「想定外の費用がかかるため費用対効果が悪い」「使ってみたが社内に浸透しなかった」などの事態が起きています。

これ即ち、数字に直結していない証拠であり、明らかな検討不足であったことは言うまでもありません。

 

本質的なコストカットの4原則

こういった事態を招かないようにするため、必ず以下の4原則を守るよう徹底して下さい。

  • 目的と背景を明確にする
  • Must要件やShould要件を定義し、段階的に実装する
  • 発注先のベンダーやSaaSなどの選定にはTCO(総所有コスト)を重視する
  • 将来的に連携したい社内システムがあれば、それを利活用する

 

① 目的・背景を明確にする

多くのプロジェクトで軽視されがちなのが「そもそもなぜこのシステムを導入するのか?」という問いです。

単に「今の業務が煩雑だから」「他社もやっているから」「DX化する方法として書いてあったから」といった曖昧な理由で動き出すと、無駄な機能や不適切なシステム選定が発生し、費用対効果から見ればむしろマイナスでしかない状況を作ってしまうのです。

 

目的の定義で意識すべき3つの視点

視点 内容
解決したい課題は? 属人化の解消、手作業の排除、業務のスピードアップ、品質向上など、明確な課題を言語化する。
期待する効果は? コスト削減額、売上アップなどを定量的に表現する。※品質向上もリピート率改善に繋がるため、売上に貢献します。
目的と手段の切り分け 例えば、「SFAを導入する」のではなく、戦略的かつ具体的に課題(※)を捉え、手段としてシステム化を行っていきます。

 

※戦略的かつ具体的に課題を捉えるための一例

<営業戦略>

・目的:売上の数字を前年度比120%にしたい。

・問題:現状でも社員のリソースはひっ迫しており、既存顧客との商談だけで手いっぱいである。

・解決策:営業効率の改善が急務。効率が上がれば、新規開拓や休眠企業(過去取引先)へのアプローチに時間を回す。(本来はこの解決策自体も手段の一つでしかなく、単純に営業する人材の獲得に努めても良い。)

<システム化検討>

・問題:営業の案件管理をスプレッドシートで行っているが、管理が煩雑なため、少し連絡する期間が開いてしまうと休眠状態になっている。

・解決策:過去の取引先に対し、一定期間が経過したら再度連絡をする仕組みが必要。ただし、定型文を送ってしまうと失礼なため、担当の営業に気づきを与え直接連絡させたい。

 

このように、目的が定まれば、コストをかけるべき範囲・そうでない範囲が明確になります。

上記の例で言えば

・     売上増をしたいが、入力工数はシステム化してもあまり変化がない。

・     つまり、気づきの部分だけ変える必要があり、契約終了日と最終連絡日の管理を徹底するだけで良い。(スプレッドシートのまま)

 

となるのですが、仮に「管理が煩雑になってしまった原因として、スプレッドシート自体が重たくなっているから」といった別の問題があれば

・     スプレッドシートをベースにシステム化する

・     入力項目は基本変更しないこと(最終連絡日、契約終了日の入力は必須とする)

・     最終連絡日からN日経過したら、営業担当にアラートメールを送る

・     外出先からの入力も必要なため、スマホからも使いやすいこと

などの要件が発生するという訳です。

 

これによって、システム化はあくまでも手段であり、本当に必要なものがどういったものか認識できたのではないでしょうか?

② 要件定義:“必要なもの”と“あれば嬉しい”ものを分ける

要件定義とは、ユーザーの要求を具体的にすることで、システムにどのような機能や性能が必要か定義するフェーズです。ここを疎かにしてしまうと、後々の開発費用や導入までのリードタイム、運用コストなどが大きく変動してしまうのです。

だからこそ、まずは以下の進め方を心がけるようにしましょう。

 

MosCoW分析 ― Must(必要不可欠)とShould(対応すべき)とCould(出来れば対応すべき)とWon’t(今回は見送る)を分類する。

 

先述したSFAの導入を例にすると、以下の様に必要な機能の優先度を分類することが出来ます。

  • Must:案件管理、顧客情報管理、商談履歴の記録、商談履歴から一定期間経過した場合にはアラートメール
  • Should:日報管理、行動管理、名刺管理、データ分析レポート
  • Won’t:地図連携、コミュニケーションツール(SlackやDiscordなど)との自動連携、チャットボットによる問い合わせ対応

 

「Should」や「Won’t」の中には、開発コストが高く、効果が曖昧なものも多いため、まずはMustだけをリリースし、早期に改善をしていくのがセオリーです。

※オペレーション自体を大きく変更し過ぎると、現場に浸透するまでに時間がかかりすぎてしまう問題なども発生します。そのため、入力項目を今までと変えないで必要最小限の機能に留めることを重要視しました。

 

小さく始めるコツ:PoCとMVPの活用

  • PoC(Proof of Concept) 小規模な概念実証。ツールや機能が期待通りに動作するか、実現可能かを検証。
  • MVP(Minimum Viable Product) 本当に必要な最小限の機能だけで構成されたプロトタイプ。実運用し、フィードバックを得る。

 

この2段構えで段階的に進めると、大きなコストをかけずに自社にとって本当に必要なシステムであるかがより顕著になります。

 

③ SaaSやパッケージ選定の罠に注意

最近では「月額〇円で使える」「初期費用0円でスタートできる」など、安価なSaaSやパッケージソフトが多数存在します。もちろん、それらが適しているケースもありますが、「安いから」という理由だけで選定するのは非常に危険です。

※先ほど例にしたSFAの場合、フルスクラッチであれば300~400万円ほどが基準になります。アカウント数だけで数万かかるようなSaaSの場合、どちらが割安になるかは火を見るよりも明らかです。

 

見落とされがちな“コストの罠”

※CRMやERPを導入している企業の方であれば想像しやすいと思いますが、以下の内容に全て該当しています。

 

  • ライセンス費用の増加 ユーザー数や機能追加で月額の利用料が跳ね上がるケースが多い。 また、データ量も問題になる場合が多く、データが蓄積すればするほどあり得ないほどの金額が請求されます。(詳しく聞きたい場合には別途ミーティングをさせていただきます。)
  • 独自技術でエンジニア確保が困難 特定ベンダーの専用言語・設計思想に依存し、外注や保守のコストが高騰。 ※一般的なプログラミング言語では、単価が60~150万円が相場です。それに対し、独自言語の場合には120~200万円と、明らかに不要なコストと言わざるをえない。(一線級のプログラマーよりもコーディングスキルが高いということはないので、この様な単価がつくこと自体が理不尽。)
  • 目的との不一致 既存機能に合わせて業務を無理やり変える羽目になり、逆に非効率。 システムに人が合わせるという考えも進んではいるものの、それによって品質面などが悪化することもあり、あくまでも業務フローをベースにどの様なシステムが必要か検討した方がよい。
  • 後からやり直すことになり二重投資 最初にSaaSを選んだが結局再開発が必要になり、初期費用+開発費用のダブル負担になることも。そのため、初めからフルスクラッチで必要な機能開発だけを続けていく方が安いといった事例も散見されている。

だからこそ、総所有コスト(TCO)で比較することが重要

導入初期だけでなく、3〜5年運用した場合の総コスト(TCO)で評価しましょう。

比較項目 パッケージ・SaaS型 スクラッチ型
初期費用(※1) 低い~スクラッチ型以上 高い
月額運用費 増加傾向あり 保守契約次第
拡張性 制限あり 自由
自社要件との合致 低〜中
長期TCO 中〜高
エンジニアの単価 高い 相場通り

 

※1. SaaS型がスクラッチ型と同じくらいの金額になると言われると不思議に思うかもしれませんが、データ処理のロジックが複雑なシステムなどであれば本当に変わりません。むしろ、先に挙げた通りエンジニアの単価がそもそも違うため、スクラッチ型の開発の方が安くなることもあります。

具体的なコストカット施策6選

ここまでの考え方を踏まえ、実務で使えるコスト削減テクニックを6つ紹介します。

  • RFP(提案依頼書)を明確に作成する →ベンダー間で見積条件のズレを防ぎ、相場感を把握できる。
  • プロトタイプ開発・アジャイル開発を入れる →要件を見える化し、無駄な工数を排除。  段階的な開発でフィードバックを反映。不要機能の開発を抑制。
  • 外注先の得意分野を見極める →「なんでもやります」の業者は危険。過去事例・専門性で判断。
  • オープンソースの活用 →初期費用を抑えながら、柔軟な拡張が可能になる。(オープンソースでなくとも、これまでの開発したものからの流用開発なども使える)
  • 自社内の業務プロセス見直し →システムで解決する前に、業務そのものを最適化。
  • 運用・保守フェーズまで見据えた設計 →「作って終わり」ではなく、5年先の運用を視野に入れた構成にする。

まとめ:費用は“目的に応じて”使うもの

システム導入や開発におけるコストカットを成功させるには、単純に価格を抑えるのではなく、「何に対していくら使うのか」を見極める思考が必要です。

  • 目的や背景を明確にする
  • 段階的に開発し、無駄を省く
  • 見えないコストも含めてシステムを評価する

これらを押さえることで、「安く、賢く、成果が出る」システム導入が可能になります。

コストカットは単なる“節約”ではなく、“戦略的投資の最適化”であることを忘れてはいけません。

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